過去10万年間の気候変動 〜プランクトン群集を用いた古環境復元〜(4)
Climate changes during the last 100 kyrs deduced from plankton records.

ベーリング海における研究例

 ベーリング海は、太平洋と大西洋を北極海を通じてつなぐ海域です。しかしベーリング海峡は水深50 mより浅く、氷期には陸続きとなりました。このように開放と閉鎖を繰り返してきたことから、この海域の環境変動は非常に激しかったと考えられます。
 海水の循環は熱のバランスに大きく影響するため、地球規模の気候変動を知るうえでも、ベーリング海の環境変動を理解することは重要です。
 またこの海域は、世界的に高い生物生産を持ち、中でも珪質殻を持つプランクトン、特に珪藻の生産が高いことで知られています。珪藻の繁殖する海は二酸化炭素の吸収能力が高く、地球温暖化の観点からも注目を集めています。


 珪藻は珪酸塩の殻を持つプランクトンです。このプランクトン群集は海洋・及びに汽水・淡水に生息し塩分や水温・光量と言った環境因子によってその種組成・生産量を変動させることが知られています。今までの研究の結果によって、珪藻はベーリング海において基礎生産を考える上で最も重要なプランクトン群集であることが分かっています。つまり珪藻の量がベーリング海の生物全体の量に大きな影響を与えている、ということです。
 左図及び下図はこの珪藻を用いたベーリング海における古環境解析の結果です。ベーリング海の東部(UMK-3A)と中南部(BOW-12A)で掘削されたピストンコア(地図参照)中の珪藻群集解析を行った結果、ベーリング海では、環境が特徴的に変動していたことが分かりました。
 ベーリング海の一次生産者である珪藻の堆積量(AR)は時代とともに、大きく変動しており(左図)、これはベーリング海内の環境変動に伴って、生物生産量が大きく変動していたことを示します。
 珪藻の種ごとの変動を詳しく調べていくと(下図)、寒冷種(気候が寒い時期に増える種)がどちらのコアでも、多く確認されたことから、ベーリング海は過去20万年間、比較的寒冷な気候が続いたと考えられます。


 また氷縁種(氷の縁に生息する珪藻)はベーリング海の東部で多く中南部では少ない結果になりました。このことから、アラスカから発達した海氷の影響がベーリング海の東部にまでは届いていたと考えられています。 
 このように同じベーリング海でも場所によって環境が異なっていることが分かっています。別地点にあるピストンコアの解析を進めることによって、空間的広がりを持ってベーリング海の古環境を復元することが出来るのです。また、長いコアを採取することができれば、ベーリング海峡の開放と閉鎖の歴史も、珪藻群集の研究から詳しくわかるようになるかもしれません。

パネル作成者: 高橋孝三、岡崎裕典、朝日博史、吉谷洋、松下貴誉加(九州大学理学研究院地球惑星科学部門)

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