(a)方解石
方解石標本は40数点を数える.種々の晶癖のものが見られ,美晶も少なくない.
(i) r (10-11),f (02-21),h (03-31),φ
(05-54)面等からなる菱面体を基本形とするものは,不老倉,間瀬,神岡,椚平,院内,赤坂,秩父産のものに見られる.
(ii) v (2131),r (53-82),y (32-51)面等を主とし,時にm
(10-10)の柱面を有する犬歯状(犬牙状)または槍状と呼ばれるものは,足尾,間瀬,赤坂産の標本がある.
(iii) e (01-12)面にm (10-10)面を伴った扁平な菱面体,花弁状,葉片状をなすものは,足尾,院内,椚平産である.
(iv) その他,産地不明の標本に樽状のもの,佐渡鉱山産の百足石と呼ばれるものなどがある.
犬牙状の双晶は足尾,間瀬産のものに,菱面体の接触または貫入双晶は間瀬,産地不明の標本に,花弁状の蝶状双晶は足尾産に見られる.
不老倉鉱山産は淡桃色を帯びた径数cm,半透明の美しい結晶である.r
面を主とし,v ,w (31-45),n (41-53)面とλ (31-42),y
,a (11-20)の小面を伴い,彎曲しているように見える.
院内鉱山産はe およびm 面から成り,ときにv の小面を件つた扁平な結晶である.白色半透明で,径4cmに達する.
足尾鉱山産の数個の標本は,黄銅鉱および母岩の表面に群集成長している.y
面が発達した無色透明の犬歯状結晶の集合体であり,f の小面を伴うものもある.y 面は(-1101)にそって彎曲し,(-1101)に平行な条線が見られる.大きさは径1cm前後のものが多い.e
面が発達した花弁状結晶の集合や,c (0001)面が顕著に発達した灰色半透明の板状結晶集合体で,小さいr面を伴っているものも認められる.結晶の厚さは1mm程度で,径は3cmに達する.足尾鉱山の方解石については砂川(1953)の研究がある.
椚平産は無色透明な{10-11}の劈開片で,大きさは7cm程度である.花弁状のものもある.
間瀬産は,v およびr を主面とする無色透明結晶が,(0001)を双晶面として貫入双晶をなしており,f
面を伴っている.
神岡鉱山産はw およびn を主面とし,r (10-11)面を伴った結晶の集合体である.w
およびn 面はともに彎曲している.白色半透明で,径は1〜1.5cmのものが多い.
(b) 鍾乳石
木浦鉱山産鐘乳石は,淡褐灰色の犬牙状方解石が平行ないし放射状に集合して,表面が鋸の歯のよう
になった鐘乳石を形成している.長さは20数cmである.
赤坂産および木浦産の1標本は,表面が比較的滑らかな普通の鐘乳石で,20cm程度の長さを有す
る.赤坂産のものの方が表面は滑らかである.
(c)玄能石
殿戸産玄能石は灰色ないし淡褐色の単斜錐体のような形であり,やや彎曲し凹凸のある8面からなっ
ている.長さ2〜5cmの単晶が放射状に5個集合して,双晶のような外観を有するが,内部は方解石の
粒状集合である.玄能石の原鉱物はゲーリュサックgaylussite(CaC03・Na2C03・5H20,単斜
晶系)といわれている.
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