足尾鉱山産の燐灰石については貴志
(1933)の形態的研究があり,標本は15個の多くを数えるが,晶相から次の4種に分けることができる.
(1) c (0001)とm (10-10)の面が顕著に発達する6角板状ないし短柱状結晶であって,稀にa (11-20)あるいはs (11-21)の微小面が認められる結晶.塊状緻密な黄銅鉱鉱石の表面に群生し,無色ないし白色の半透明結晶である.径3〜20mm,厚さ3〜8mmの美晶であり,m
面にはc 軸に平行な条線が認められる.
(2) c ,m 面およびr (10-12)面が発達する6角板状の結晶.黄銅鉱および閃亜鉛鉱から成る鉱石を被う1mm以下の鱗片状燐灰石の皮殻上に,径5〜15mm,厚さ1〜5mm,白濁不透明の結晶が群生している.
(3) c ,m ,s の諸面が明瞭に発達する6角板状の結晶.
(4) c およびm を主面とし,s およびx (10-11)面もよく発達するが,さらにr
,a ,y (20-21),n (31-41)などの微小面も認められる6角板状結晶.母岩(石英粗面岩)の晶洞中に生成したと考えられる.水晶を伴っており,径1〜2cm,厚さ1〜5mmの無色透明な板状結晶である.c
およびm 面は顕著な光沢を有する.
秩父鉱山産は磁鉄鉱,灰鉄輝石,緑簾石などと共出しており,表面は白色不透明,内部は淡緑色半透明の6角柱状結晶である.m
およびx を主面とし,a の小面を伴う.c 面は認められない.大きさは径4〜5mm,長さ8mmに達する.
玄倉産(5個)は,表面は白色不透明であるが内部は淡緑色半透明の大きな柱状結晶であり,径4cm,長さ6cmに達する.柱面はa
およびm 面から成り,a 面の方がよく発達している.端面はc およびx
面から成るが,x 面の発達がよく,c 面は小さい.
増富産は石英および雲母と共出している.晶癖は玄倉産と類似するが,c ,x
,m ,a の諸面がほぼ等大に発達している.大きさは径1〜2cm,長さ3cm程度であり,灰白色の不透明な結晶である.
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