石英の標本数は100個を越える.多くの変種が知られているので,岡本の分類に従って次のように分けた.
(a) 水晶:無色透明,ときに白色の単結晶あるいは双晶.(b) 黒水晶:黒色,濃褐色,淡褐色,透明ないし半透明のもの.(c)
紫水晶.(d) ばら石英.(e) 草入水晶・緑石英:緑色の透明ないし半透明の結晶はわが国ではしばしば草入水晶と呼ばれる.緑泥石や陽起石などの微晶包有物のため緑色を呈するとされている.(f)
砂金水晶:アベンチュリンと呼ばれるもの.(g) 鉄石英:赤色を呈する石英で,酸化鉄を含む.(h) 玉髄.(i) 瑪瑠.(j)
碧玉.
(a) 水晶
水晶は高標本の特徴の1つであって,無色透明ないし乳白色半透明な数十個の結晶標本がある,そのうち,日本式双晶は約20個見られる.
佐渡鉱山産はr (10-11),z (01-11),m (10-10)面よりなる,白色半透明の6角柱状結晶である.径5mm,長さ10mm程度の結晶が群生しており,平行連晶も見られる.
金峰山産はm ,r ,z 面よりなる白色半透明の結晶で,両端面を有する.長さ14cm,径7cmに達する.ほかに日本式双晶をなすもの,ドフィーネ双晶等がある.
川端下産はいずれも白色,半透明の日本式双晶で,一方の結晶が大きく成長しており,またいずれか一方の結晶には両錐面が見られる.
神岡鉱山産はr とz 面が発達し,柱面はほとんど見られない両錐形結晶の集合体である.径1cm以下で,無色透明ないし白色半透明であるが,内部には淡褐色の包有物が見られる.
田の上山産はm ,r ,z 面よりなる6角柱状結晶で,端面は3角錐式である.r
面がやや発達しており,径3cm,長さ7cmである.内部は黒色であるが,表面は乳白色不透明の薄い層になっており,蝕像が見られる.当地産の水晶については,中森(1932),中司(1932)等により産状,形態等が記載されている.
中瀬鉱山産はr およびz の錐面が発達し,m の柱面はほとんど見られない.径5〜10mmの白色半透明結晶が集合して,球状を呈する.
尾平鉱山産はm ,r ,z 面よりなる無色透明,径3〜5mm,長さ2〜3mmの結晶が群生している.柱面は端面に近づくにつれて細くなっており,鋭錐状をなす.ほとんどすべての結晶中に少量の黒色包有物が認められる.
ブラジル(Hyaline鉱山)産は柱面m が2面だけ見られるガラス様の完全透明結晶で,10数cmの塊状である.
(b) 黒水晶
黒水晶の標本数は17個であるが産地は2ヵ所である.
苗木産はm (10-10),r
(10-11),z (01-11)面を主とし,x (51-61)面を伴った6角長柱状左手結晶で,ドフィーネ双晶をなしている.黒色半透明で径5cm,長さ14cmに達する.右手結晶のドフィーネ双晶で,錐面には結晶成長模様が見られるものがある.
田の上山産は,まつたけ水晶とも呼ばれるもので,白色半透明の水晶の一端に平行連晶をなして黒水晶が発達しており,雲母を伴う.外側の黒水晶はしばしば両端面を有する,大部分は黒褐色透明であるが,一部は無色になっている.径1cm程度,長さ3〜5cmである.右手ドフィーネのもの,頂部は多くの平行連晶の錐面からなるもの,右手平行連晶を示すもの,両端面を有するものを有する.
(c) 紫水晶
小原産紫水晶はm
(10-10),m (10-11),z (01-11)面よりなる6角短柱状結晶の集合体で,両端面を有する.結晶は径5〜10mm,長さ10〜15mm,尖端は濃紫色透明であるが,他の部分は淡紫色ないし無色である.なお,当地産紫水晶の形態については,神保(1899)の報告がある.
南アメリカ産は主に錐面よりなる径3〜5cmの美結晶が群生する大型標本である.頂部は紫色,内部は乳白色を呈する.
(d) ばら石英
永戸村産および祖吉産ばら石英は,ともに結晶形を示さず,淡紅色,塊状である.
(e) 草入水晶・緑石英
竹森産草入水晶は,透明な水晶中に黒色の針状結晶が多数含まれており,水晶中に草が生えているように見える.他産地のものは淡緑色不透明の水晶で,プレーズpraseと呼ばれる.尾平鉱山産および山裏産は斧石を伴い,径1cm,長さ数cmで,端部に向って細くなる6角長柱状結晶である.向山産は基部は無色透明ないし白色半透明,頂部は緑色を呈し,頂部に向うほど細くなっている.
(f) 砂金水晶
蔚山産砂金水晶はm
(10-10),r (10-11),z (01-11)面よりなり,m 面には条線を有する.赤紫色半透明の6角状結晶で,径1〜2cm,長さ2〜3cmのものが石英塊の表面に平行連晶をなしている.結晶の内部には,赤色針状で反射光線により銀白色を呈する微細な鉱物を無数に含んでいる.砂金水晶が密生した大型標本も有する.
(g) 鉄石英
花輪鉱山産鉄石英は,径5〜10mmの鉄石英粒のぶどう状集合体である.中心部は白色不透明,周縁部は赤褐色不透明の同心円構造をなし,表面には径0.5〜1mmのm
(10-10),r (10-11),z (01-11)面よりなる微細結晶が密生している.
津久見産はいわゆる赤白珪石であって,赤褐色チャート質の鉄石英部と白色の脈石英部とからなり,鉄石英部は径1〜数cmの角礫状を呈し,周囲に鮮赤色環状の縞を有する.なお,赤白珪石は高壮吉により八幡製鉄所勤務時代に津久見で発見され(1903年),その後各地で見出されて,本邦の珪石耐火物の主原料となっている.
(h) 玉髄
諸富野産玉髄は白色半透明のぶどう状集合体で,半球穎状,径5〜10mmのものが多い.
佐渡鉱山産は灰白色半透明で,鐘乳状ないしぶどう状の集合体をなしている.径1cm程度,長さ2〜8cmである.
赤谷産は,灰色半透明の放射状構造を有する径5cm程度の塊である.
日吉村産は巻貝を置換したもので,無光沢からガラス光沢のものまである.
(i) 瑪瑙
珍古辺産瑪瑙は長径30cm,短径15cmの楕円形である.外側は赤色ないし赤褐色を呈し,その内側幅2〜3cmは燈色,黄色,白色の部分が縞状になっている.中心付近は淡黄色で空洞をなしている.
(j) 碧玉
美利加鉱山産碧玉は濃緑色を呈し,研磨面では樹脂光沢を有する.赤色を呈する部分もある.濃緑色のものは青虎,赤色のものは虎石といわれる.
珍古辺産は赤色の部分と濃緑色の部分がまだらになっており,長径15cmの塊状をなす.
玉造産は濃緑色でほとんど光沢を持たない径8cmの塊である.俗に青瑪瑙またほ玉造石と称せられ,装飾用として珍重される.
|