正長石と微斜長石とは外観で区別することはできない.一括してカリ長石と呼ぶのも一方法であるが,ここでは高標本における従来の呼び方に従い,正長石として記載した.標本数は70個の多くを数え,高標本におけるもっとも標本個数の多い鉱物の一つである.結晶はほとんどすべてがペグマタイト中に産する巨晶であり,径4〜5cmのものが普通で,最大径20cmのものもある.色は一般に白色ないし淡黄色を呈し,肉紅色あるいは淡緑色のものは少ない.なお,単結晶よりも,連晶や双晶をなす場合が多い.単結晶の晶相は次の3つの型にまとめられる.
(1) c (001),b (010),m (110),x (-101)面が良く発達し,これに,y
(-201)の小面を伴う柱状結晶で,比較的簡単な面構成が特徴である.
石川山産,苗木産,および田の上山産の正長石はこの型の代表的な標本で,長柱状をなす.また田の上山産には
c ,b ,m ,x ,y 面に加えて細いo
(111)面を有し,このうちc ,x 面が良く発達した短柱状を呈するものもある.
(2) c ,b ,m の3面が良く発達して柱状をなす点は(1)型と同じであるが,これにy
,x ,o ,n (021),z (130)の諸面が加わり,やや複雑な面構成となる.産地不明標本が典型的な標本で長柱状をなしており,n
およびz 面が大きく発達するのに比しy ,o の面は小さい.
金峰山産もこの型に属する長柱状結晶で,n およびx 面を欠いているが,y
面が良く発達しo ,z の細い面を伴う.とくに(001)の劈開が著しい.
田の上山産はn 面を欠いており,またc 面の顕著な発達で短柱状をなすが,o
,x 面も比較的良く発達している.n 面を欠くが長柱状をなしており,z ,y
,x ,o 面がかなり良く発達するものも認められる.
苗木産は水晶と共出する柱状結晶で,径1.5cm,高さ2.5cmの小結晶が群生する.これは淡緑色を呈する美晶で,天河石amazoniteと称されるものである.
(3) m とx 面で特徴づけられる氷長石adularia型の晶相であって,高玉鉱山産はこの型に属する.同標本は7mm程度の淡褐色の小結晶が群生しており,b
(010)の細い面を伴っている.ときに緑色ないし白色半透明の小結晶で,同様の晶相を有する.
次に双晶をなすものについてみると,(100)を双晶面とするカールスバッド双晶,(001)を双晶面とするマネバッハ双晶,(021)を双晶面とするバベノ双晶,およびまれにこれらの連合双晶が認められる.
(1) カールスバッド双晶
苗木産は水晶を伴って1cm程度の小結晶が群生するが,これらはc ,m ,x
,b 面から成るカールスバッド双晶をなし,一見単結晶の様な形態を示す.
屋久島産は風化により結晶面は平滑さを欠くが,c
,b ,y ,m 面から成る典型的なカールスバッド双晶で,b 面の発達が良く,扁平な形を呈する.
田の上山産はb ,c ,m 面にくわえ,x ,y
,o ,z の小面が伴い,複雑な面構成の双晶である.花崗岩の斑晶をなす径2cm,長さ2.5cmの桃色の小結晶で,c
,b ,m ,y ,o ,z 面から成る双晶であるものが含まれる.
(2) マネバッハ双晶
この型の標本は少ないが,田の上山産がマネバッハ双晶の代表である.4軸方向に伸びた4角柱状をなし,b
,c 面のほかにx ,m ,o ,z ,y
の諸面が認められる.
(3) バベノ双晶
この型の双晶は,(2)型同様に4軸方向に長柱状をなすのが特徴であり,その断面もほぼ4角形に近い.標本は多数にのぼるが,いずれも端部しか認められない.
茂木山産は径1.5cmの小結晶ではあるが,b ,c ,m ,y
,x 面から成り,苗木産はb ,c ,m ,x 面から成る比較的簡単な面構成のバベノ双晶である.
田の上山産および金峰山産は,b ,c ,m ,o
,x ,y ,z 面を有する複雑な面構成の双晶である.なお,z 面はいずれか一方の個体にしか認められない.
また,苗木産にはそれぞれマネバッハ一バベノ式連晶,バベノ4連晶をなしており,いずれもa 軸に伸びた柱状をなし,径2〜3cmの4角な断面を持つ標本が認められる.前者ではc
,b ,m ,o ,x ,y ,z 面,後者ではc
,n ,m ,o ,x ,y の諸面が認められる.
福吉産は石英とともに文象構造をなすものである.
|