斧石標本は50個の多くを数えるが,ほとんど大部分が尾平鉱山および山裏産であり,特に尾平鉱山については,ハジカミ,晶洞坑,大蔵谷,五月山,銀鋪等の各地から採集されている.これらは接触変成帯に群生するもので,単結晶をなすものは少なく,多くの場合,銀鋪産に見られるような花弁状,晶洞坑産に見られるような扇状等の集合体をなす.色は一般に暗褐色ないし淡褐色を呈するが,やや紫色を帯びるものもある.尾平および山裏産斧石の形態について,HARADA (1939)の総括的研究があり,その結果によれば,
M (10-1),m (110),b (010),Y (-1-11),r
(011),s (-121),x (-111),z (012),c
(001),l (1-20),g (-103),f (-102),q
(-2-11),a (100)の諸面が認められ,M ,b ,r ,z
面には条線が発達する.形態は次の6つの型に細分されている.
(1) r ,a 面の著しい発達と,Y ,M 面で特徴づけられる厚板状結晶で,これにc
,z ,x ,s ,l ,b ,q の小面が伴うもの.すなわち,〔01-1〕,〔011〕晶帯に属する面の発達が著しい.尾平産および同大蔵谷産がこの型に属するが,c
,s ,x 面は極めて弱いかこれを欠いている.結晶は大きいもので厚さ5mm,短径6mm,長径13mm程度である.
(2) (1)型に似るが,r 面が極めて大きく発達し,b ,l ,M ,a
面が細長く伸びた薄板状結晶で,z ,c 面を欠くもの.尾平産および同ハジカミ産がこの型に属するが,q
,s ,x 面は発達が弱いかあるいはこれを欠き,l ,M 面も強い条線のため塊が不鮮明となる.結晶は厚さ1〜4mm,径1〜1.8cmの大きさである.また,尾平ハジカミ産に見られるように,この(2)型の結晶が平行連晶をなすと,面が多少彎曲した(1)型の厚板状晶相となる.
(3) l ,s ,x の小面も認められるが,r ,b ,M
面の発達で特徴づけられ,このため結晶は3角状に尖った晶相を示すもの.
尾平産がこの型に属する.いずれもl面を欠き,大きさは短径10mm,長径15mm,厚さ6mm程度である.このうちr
,b ,M の3面から成り,稀に細いx 面を伴うものが認められ,また,s
,x 面が比較的大きく発達して,次の(4)型に近い晶相を示す結晶も見出される.
(4) (3)型に似るがr ,s ,b ,M ,x 面がほぼ等大に発達し,鋭稜を有するうすい晶相のもの,すなわち〔11-1〕と〔101〕晶帯に属する面だけから成るもの.山裏産がこの型の典型的な標本で,大きさは短径15mm,長径30mm,厚さ8mmに達する.
(5) (3)型に似てr ,M ,b 面が大きく発達するが,〔11-1〕晶帯軸方向に伸びた晶相で,a
,x ,z 面も比較的良く発達し,細いm 面を伴うもの.
(6) 〔100〕晶帯に属するb ,M 面と,〔001〕晶帯に属するr ,z
面の発達で特徴づけられるが,b ,M 面が細長いため,楔形状晶相を呈するもので,l
,s ,x ,c ,g ,f の小面を伴う.
(5) および(6)型は,典型的な標本はみられないが,両型の中間型が認められる.尾平ハジカミ産,同五月山産がこれにあたり,a ,x
の小面を伴ってM ,b ,r ,z 面が大きく発達し,鋭い楔形をなす.大きさは短径2.5cm,長径5cmにも達する大晶である.
秩父鉱山産はホルンフェルスの空隙に,白色ないし灰緑色の,径2〜3mmの小結晶が群生している.
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